元フロンティア・マーシャルアーツ・レスリング株式会社社長、荒井昌一氏による書籍。
荒井氏はインディー団体のパイオニア的存在であるFMWでリングアナウンサーを務め、大仁田厚引退後には新生FMWの社長に就任した。
FMW倒産時、冬木弘道がマスコミに「5万円で始まったFMWは、5万円で終わった」とコメント。本書にはそんなFMWの軌跡が綴られている。
第1章 軟禁
いきなり物騒なタイトル。東京・西新宿のカフェで、荒井氏が10人以上の街金業者に囲まれている場面から始まる。借金の取り立て現場である。専門用語にも分かりやすい説明がされているところからも、荒井氏の丁寧な人柄が伝わってくる。
スター選手ハヤブサのケガなど、いくつかの要因が重なりFMWの興行収益は落ち込んでいく。自転車操業を繰り返して延命していたが、瀕死の状態だった。
小切手の不渡りを目前に、複数の街金業者を回って金策に走る綱渡りの1日が生々しく書かれている。生きるか死ぬかのロープワーク。激しくなる動悸。潰れそうな喉。「もしこれが自分だったら…」と考えると胃が痛くなるような緊張感だ。
果たして荒井氏は街金業者の厳しい攻めを受け切れるのか。
第2章 挑戦
大仁田厚によって設立されたFMWは、大仁田の引退に伴って解散する可能性があった。しかし「お前がやらないのなら、FMWは解散じゃ」という大仁田の言葉で、新生FMWの社長になることを決意した荒井氏。ここから荒井氏の新たな挑戦が始まる。
この章ではプロレス団体の運営・経営(自主興行と売り興行、チケットやプロモーター、選手のギャラ、アングル)といったプロレスの裏側についても書かれていて興味深い。
大仁田が江崎英治を嫌いだったのは江崎が男前だったから!?
第3章 訣別
プロレスファンだった荒井氏がFMWに入社する過程や、FMWの売りであるデスマッチの進化について触れながら、大仁田の復帰に振り回された新生FMWのことが書かれている。
大仁田は復帰後、マッチメイクにも頻繁に口出しするようになる。
「誰がこの団体を作ったんじゃ!俺がこの団体の看板、エースなんじゃ!」
現場サイドは大仁田の理不尽さに怒りを爆発させるが、荒井氏は大仁田に頭が上がらない。
大仁田の暴走に興行成績は徐々に悪化。荒井氏は遂に大規模な資金の借り入れを決断、さらに新団体起ち上げを目論む大仁田との絶縁を決意する。
「僕は大仁田さんに殺されるかもしれない…」
第4章 愛憎
メジャーとインディー、ベビーフェイスとヒールについて書かれている。
ミスター・ポーゴ、ターザン後藤、金村キンタロー、女子選手などの裏話も。
ポーゴ「いや、歯ブラシ入れ忘れた気がして…」
後藤「俺は言わない。墓の中にまで持っていく」
「女子プロレスラーにはレズビアンが多い」
この章のタイトルは愛憎だが、FMWのリングに上がった選手たちに対する荒井氏の愛情を強く感じる。
第5章 蜃気楼
プロレスバブルの崩壊や大口スポンサーとの契約解消などが重なり、FMWの経営状態が窮地に陥る中、降って湧いたようなディレクTVとの契約。
荒井社長らフロントをも巻き込むアングルの成功により、FMWは「エンタメ路線」を突き進む。興行は充実した一方、金がかかるエンタメ路線の経費は予想を超え、気が付けば銀行などから1,000万円単位の短期借り入れを繰り返すようになっていた。
税金の滞納問題も重くのしかかり、荒井氏は自らの貯金を取り崩し、会社の経理に補填するようになる。
一縷の望みであった横浜アリーナ大会も赤字、頼みの綱であったディレクTVも売り上げ不振のため事業中止。荒井氏は自分の個人名義で消費者金融への借り入れを始める。
ギャラの未払いによる選手の離脱、危険な金融会社からの借金、離婚、そして選手生命を絶たれたハヤブサの大怪我。
「私は止まれなかった。壊れたままでも走り続けることのほうが大事になっていたのです」
負債は2億5,000万円を超えていた。借金地獄に陥った荒井氏は、遂にギブアップした。
第6章 不死鳥(フェニックス)
2002年2月14日、1回目の不渡り。
「横になりたい。誰の声も聞かずに1人になりたい。少しでもいいから眠りにつきたい。いや、今ならいっそ、永遠の眠りにでもつければ」
翌15日に2回目の不渡り。FMWは事実上、倒産した。
身を隠しながら必死に債務整理などを行う荒井氏。公式の場に出ることはできなかったが、入院中の江崎英治にだけは直接会って頭を下げることができた。
荒井氏は「私は負けたままで終わりたくない。カウント2.99でいいから、立ち上がりたい」と前向きな言葉を残し、「私はファンのみなさんと共に、最後までFMWを愛し続けます」と宣言して本書を締めくくっている。
ご存知の方もいらっしゃるかと思うが、荒井氏は本書を上梓して間もなく、2002年5月に自らの命を絶った。
「プロレスというのは、ショーだということが分かったくらいで、その魅力を失うようなものではありません」
「プロレスとは、団体が一丸となり、血みどろになって作りあげるドラマなのだ」
こうした言葉からは荒井氏のプロレスに対する情熱が伝わってくる。
一方で、本書でも繰り返された謝罪の言葉や「プロレスとは、多くの人に感動と熱狂を与えると同時に、多くの人を破滅に導くこともある世界だった」といった言葉は、プロレス団体の運営・経営の厳しさやリスクを訴えているようだ。
本書からは大仁田に対する尊敬・感謝・忠誠・軽蔑といった様々な感情と荒井氏の真面目な人柄が伝わってくると同時に、「荒井氏がもっといい加減な人間であったら…」と思わずにはいられない。
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