収録作品
蜘蛛男
「蜘蛛男」(長編小説)
<あらすじ>
美術商の稲垣平造(いながきへいぞう)と名乗る紳士が、関東ビルディングという貸し事務所の十三号室を借りる。そこで女事務員を募集した稲垣氏は里見芳枝(よしえ)という若い娘を採用し、一軒の空き家へ連れて行く。
その後、稲垣氏はセールスマンとして採用した六人の青年に石膏の人体模型を持たせ、高等学校へ見本として配ってくるように指示する。しかし、六人のうちの一人、平田東一という不良青年は指示された学校へは行かず、渡された片腕の石膏細工を額縁屋に売って金にした。平田青年が翌朝関東ビルディングへ行くと十三号室は戸締まりがしてあり、稲垣氏は姿を消す。
それから一週間ばかり経ったある日、里見芳枝の姉絹枝(きぬえ)が義足の犯罪学者畔柳(くろやなぎ)友助博士邸を訪れ、芳枝が行方不明であることを伝える。それを聞いた畔柳博士と助手の野崎三郎(のざきさぶろう)は関東ビルディングを訪れ、そこに現れた平田青年から石膏細工を額縁屋に売り飛ばしたことを聞く。畔柳博士がその石膏細工を調べてみると、中には人間の腕が隠れており、それが芳枝の右腕であることが分かった。高等学校に配られた残りの五つの石膏細工からも首や胴などが見つかり、さらには絹枝が何者かによって殺害され、水族館の水槽に浮かんでいるのが発見される。
次の標的となった女優の富士洋子は、厳戒態勢が敷かれたにもかかわらず、男優にすり替わった犯人に車で連れ去られてしまう。急いで後を追った波越(なみこし)警部らのおかげで洋子は一命を取りとめたが、犯人である蜘蛛男を捕らえることはできず、蜘蛛男の行き先を突き止めようと車に隠れていた畔柳博士のもくろみも崩れてしまう。
翌日、波越警部の制帽の中に蜘蛛男からの挑戦状が見つかり、再び厳戒態勢の中で撮影が行われたが、洋子は小道具方に扮した犯人によって麻酔剤を混入された液体を飲んでしまう。直ちに病院から医師が呼ばれたが、野崎三郎がこの白髪の老医が偽物ではないかと疑うと、危険を察知した老医(蜘蛛男)は撮影所のスタジオ内に逃走。刑事らによって追い詰めたが、ピストルと機知により逃げられてしまう。
洋子は撮影所長の邸宅に運ばれたが、これまで警戒の人数が多かったことが失敗であったと考えた畔柳博士は、自身と波越警部の二人で洋子を見張ることを提案する。
犯行予告の日も十二時を迎え、二人がベッドで寝ている洋子を確認するとそこに洋子の姿はなく、生き人形の女の首と胴体に見せかけた敷きぶとんにすり替えられていた。
畔柳博士と波越警部が洋子を見張っている間、塀の外で見張り番をしていた野崎三郎は一台の自動車と怪しげな人物を発見する。野崎は自動車の後部にしがみつき、犯人の根城である空き家に辿り着くが、蜘蛛男の手下となっていた平田不良青年に尾行がばれて地下室に監禁されてしまう。洋子も同じ敷地内の土蔵に監禁されていたが、護身用に隠し持っていた短刀で蜘蛛男を刺して脱出、撮影所長邸に電話をかけた。これにより蜘蛛男の根城である空き家の場所が明らかになり、監禁されていた野崎三郎も助け出されたが、蜘蛛男と平田青年はどこかへ消え去っていた。
犯人が捕まらないまま一週間程経った頃、突然警視庁を訪れてきたのは外国から帰ってきたばかりの明智小五郎だった。
たった一日で蜘蛛男の正体を見抜いた明智が波越警部らと犯人逮捕へ向かうが、またしても蜘蛛男は姿をくらましてしまう。
明智小五郎対蜘蛛男の大闘争、結末やいかに。
<レビュー>※ネタバレあり
前半は畔柳博士が探偵役として蜘蛛男を追い、後半は明智小五郎が探偵役として蜘蛛男(畔柳博士)を追います。
探偵が犯人という盲点をついてはいますが、それぞれのトリックについては大したことはなく、読み進めていくうちに畔柳博士が怪しいと気付く人も少なくないと思います。
個人的には明智が短時間で畔柳博士が蜘蛛男であることを見抜き、推理を披露する場面が本作のクライマックスですが、物語はそれで大団円とはならず、そこから「名探偵明智小五郎 対 有名犯罪学者畔柳博士」という展開に移っていきます。
とにかくしぶとい蜘蛛男。平田という相棒のおかげもあってなかなか捕まりません。
正体がばれた後もカーチェイスから交番襲撃、警官に化けて逃走。そして、富士洋子が匿(かくま)われている村に姿を現します。しかし、これは畔柳博士をおびき寄せる明智の罠でした。
明智に向けてピストルの引き金を引いた畔柳博士でしたが、明智はピストルの弾を抜き取っており、2人は取っ組み合いになります。明智が畔柳博士に首を絞められ殺されそうになると、洋子が明智のピストルで畔柳博士を撃って救出。しかし、明智が畔柳博士を縛って駐在所へ走り去ると、なぜか洋子は畔柳博士の縄を解いてしまいます。ストックホルム症候群でしょうか。洋子は畔柳博士に崖から落とされ死亡、畔柳博士は自らの身代わりとなる死体を事前に用意しており、遺書により洋子を道連れにした自殺と見せかけます。
その後、畔柳博士はパノラマ館の経営者、園田大造を名乗り、誘拐した49人の女性をパノラマ館で虐殺しようとしますが、人形に化けて潜入していた明智がこの企みを阻止します。観念した蜘蛛男はピストルで自殺を図りますが、またもや明智によって弾は抜き取られていました。いよいよ追い詰められた蜘蛛男は、パノラマ館に置かれた剣の山に飛び込み自殺。物語は幕を閉じます。
「推理物+大捕り物」といった趣の作品でした。
ちなみに、畔柳博士の義足は偽装で、実際は不自由なく動くことができました。
また、平田青年はパノラマ館の開館式直前に蜘蛛男と別れ、その後については書かれていません。
<評価>
☆☆☆☆
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