収録作品
妖虫
「妖虫」(長編小説)
<あらすじ>
ある晩、大学生の相川守(あいかわまもる)と妹の珠子(たまこ)は、珠子の家庭教師である殿村京子(とのむらきょうこ)を連れてレストランへ食事に行く。殿村夫人が青めがねをかけた客の会話を読唇術で読み取ると、それは人殺しの相談であった。
人一倍好奇心が強い相川青年は殿村夫人が読み取った内容の通りに谷中の墓地近くの空き家へ行くと、ミス・ニッポンにも選ばれた美人女優春川月子が青めがねの男に惨殺されるのを目撃する。相川青年は急いで派出所に走り二人の警官と共に現場に戻るが、既に犯人の姿はなく、床の間の壁には人間の血でサソリの絵が描かれていた。その後、警官らの捜索により被害者の胴体は井戸の中で、手足は草むらで発見される。
次に狙われたのは雑誌の投票でミス・トウキョウに選ばれた珠子だった。
相川青年は加勢を願うべく老私立探偵三笠竜介(みかさりゅうすけ)の事務所を訪れるが、三笠氏に化けた偽物によって床下の地下室に落とされてしまう。相川青年はそこで、同じく偽物によって地下室に落とされていた本物の三笠探偵と対面する。
三笠探偵の偽物は相川邸を訪れ、珠子をどこか別の場所へ逃がすことを提案。珠子と父親の操一(そういち)氏を車に乗せ、三河島の見せ物小屋へと向かう。
操一氏は葉巻に仕込まれた眠り薬によって眠らされ、青めがねの男と偽探偵がいよいよ珠子を手にかけようとした時、地下室から脱出して犯人の部下に成りすましていた本物の三笠探偵と相川青年によって珠子は救出される。
警官たちによって犯人らは取り押さえられるが、張り子の岩に隠れていた何者かが短刀で三笠探偵を刺し、この機に乗じて犯人たちは再び珠子を奪い去る。
翌日、銀座通りにある洋服店のショーウインドー内に珠子の死体が飾られているのが発見された。
珠子の死後、美人ヴァイオリニスト桜井品子の家庭教師となった殿村夫人は、品子の肩に赤いサソリの死骸が付いていたことを相川青年に伝える。
品子もまた妖虫の毒牙にかかってしまうのか…。
<レビュー>※ネタバレあり
タイトルの妖虫はサソリのことを指します。犯行現場にサソリの死骸が置かれるなど、犯人のシンボルのようなものとして度々サソリが出てきます。
三笠探偵は入院中に赤サソリによって毒殺されかけますが、辛うじて難を逃れます。そして、それを逆手に取って瀕死の病人を装い、密かに赤サソリの正体を探ります。
一方、相川青年も赤サソリを捕らえるべく桜井邸の庭内に身を潜めていると、サソリの縫いぐるみを着た子どもが現れます。相川青年は子どもを捕らえますが、背後から忍び寄ってきた何者かに麻酔剤をかがされて連れ去られます。
翌日、相川青年は丸の内のオフィス街で赤サソリの衣装を着せられ倒れているところを警官によって保護されました。これにより、相川青年は殺害対象ではないことが分かります。
同日、警官に化けた賊の一味に品子が誘拐されると、間もなくして三笠探偵が大きなトランクを背負った助手と共に桜井邸にやってきます。
トランクの中には異形の小娘が入っており、トランクから出た子どもは殿村夫人に抱きつきます。ここで殿村夫人が主犯であったことが明らかになります。この異形の小娘は殿村夫人の子どもでした。
誘拐されたと思われた品子は桜井邸の広間の天井裏に隠されており、殿村夫人は目覚まし時計と肉切り包丁を使った仕掛けで殺害するつもりでしたが、三笠探偵によって天井裏から助け出されていました。
主犯であることがばれた上、品子殺害も失敗した殿村夫人は娘に毒薬を飲ませ、続けて自らも毒薬を飲んで死にます。
本作は推理小説を読むにあたって「犯人が誰であるか」を重視する方には物足りないだろうと思います。というのも、初っ端の読唇術からして怪しいですし、3つの事件全てに関わる殿村夫人が明らかに犯人第一候補です。被害者にはミス・ニッポン、ミス・トウキョウ、美人ヴァイオリニストという明白な共通点があり、美しい女を滅ぼし尽くすという犯罪目的も捻りはありません(殿村夫人の容貌が醜いのは冒頭に書かれています)
しかしながら “小さい人間” の存在は最後まで興味を惹きますし、少々頼りない三笠老探偵も明智小五郎とはまた違った魅力があります。
殿村夫人の犯罪動機についてもう少し詳しく書くと、殿村夫人の母親も醜婦で、数々の不幸を味わった末に自殺しています。殿村夫人は浮浪の男との間に異形の娘を産みますが、娘は見せ物小屋に売り飛ばされ、殿村夫人もこじき同然の男に捨てられてしまい、遂に呪いの妖魔となったのでした。
<評価>
☆☆☆
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