江戸川乱歩⑪「魔術師」

乱歩とハヤブサ 江戸川乱歩

収録作品
魔術師

「魔術師」(長編小説)

<あらすじ>
とある湖畔のホテルで静養中の明智小五郎に、東京の波越警部から電話がかかってくる。
波越警部の知り合いの福田得二郎(とくじろう)という実業家のところに妙な事件が起こったため力を貸して欲しいという依頼だった。福田氏は明智が静養中に知り合った宝石商の娘玉村妙子(たえこ)の叔父であることから、その日のうちに帰京することを決める。
予定通り上野駅に着いた明智だったが、福田氏からの迎えだという自動車の運転手と助手に連れ去られ行方不明となる。
その日の真夜中、福田氏が厳重に密閉された寝室で殺されているのが発見される。福田氏の首は切断され、高価なダイヤモンドとともに持ち去られていた。寝室の壁紙には常人の一倍半はある大きな血の手型が残されており、福田邸近くの掘っ立て小屋で寝ていた老人力車夫がお屋敷の方から走り去る大男を見たという。
事件のあった翌々朝、「獄門舟」と記された板に乗せられた福田氏の生首が隅田川を漂っているのが見つかる。
一方、東京湾を漂う船内に幽閉されていた明智は、賊の首領の娘文代(ふみよ)の協力によりボートを奪って船外に脱出したが、翌々日の朝刊に明智小五郎溺死の記事が載る。
その後、玉村氏本邸にて二人の犠牲者が出る。
一人目の犠牲者妙子は密閉された寝室で何者かに襲われた。
庭掃除のために雇われた音吉じいさんが異変にいち早く気付いたため致命傷は避けられたが、妙子の右腕のつけ根には短刀が突き刺さっていた。
二人目の犠牲者は長男の一郎。本邸の屋根に取り付けられた大時計の針で危うく首を切断する危機に陥るが、これも音吉の助けにより一命を取りとめる。
続けて、妙子の友だちで次男二郎と恋仲の花園洋子が姿を消す。
洋子を捜し歩いていた二郎がふと一軒の見せ物小屋に入ってみると、洋子に生き写しの裸体人形を使った美人解体術なる残酷な見せ物が披露されていた。あの裸体人形は本物の洋子だったのではないかと疑念を抱いた二郎が小屋の楽屋口へ行ってみると、そこに意外な人物、音吉がたたずんでいた。二郎と音吉は土の中に埋められた麻袋の中から人間の死骸を見つけたが、やはりそれは本物の洋子であった。
賊を取り逃がした二人だったが、首領の娘文代が意図的に残した痕跡により賊の住み家に辿り着くことに成功する。しかし、魔術師のトリックによりここでも賊を取り逃がしてしまう。
それから約一カ月後、玉村家主人の善太郎と一郎、二郎、妙子の三人の子どもたちは宝石道楽の成金紳士牛原耕造氏の晩餐会に招かれる。
食事を終えると牛原氏秘蔵のダイヤモンドが披露されたが、善太郎はそれが弟得二郎が殺された際に盗まれたダイヤモンドであることに気付く。牛原氏はこのダイヤモンドの譲り主を捜し出すと約束した後、玉村家一同に牛原氏自作の小型映画を見せる。
この映画には恐ろしい真実が隠されており、玉村家一同は地下室に閉じ込められてしまう。なんとか脱出を図ろうと試みるが、魔術師の策略にはまり、室内にはおびただしい水が流れ込む。
玉村家一同はこのまま溺死してしまうのか。そして地下室から忽然と姿を消した妙子はどこへ行ったのか。

<レビュー>※ネタバレあり
序盤に明智小五郎が賊にさらわれ幽閉されますが、これは賊の首領である魔術師が明智を恐れたためです。明智はなんとか船外に脱出しますが、「明智小五郎溺死」というショッキングな記事が載ります。ですが、明智溺死を信じた読者はほとんどいないでしょう。明智は賊を油断させるために自らを溺死したことにし、雇われ人の音吉として玉村邸に入り込みます。しかし、音吉が犯人ではないかと疑っていた二郎に邪魔をされ、賊を取り逃がすばかりか明智が生きていることもばれてしまいました。

牛原氏の小型映画を見た場面では魔術師の犯行動機と正体が明らかになります。
かつて玉村善太郎の父幸右衛門(こうえもん)は自分の愛妾である操(みさお)と密通していた奥村源次郎を地下の穴蔵に生き埋めにして殺しました。牛原氏は源次郎と操の間に生まれた子ども奥村源造であり、父源次郎の仇と悲惨な人生を歩んできた源造自身の復讐のために玉村家の人間を狙っていたのです。
地下室での水責めにより溺死寸前となった玉村善太郎、一郎、二郎の3人でしたが、源造の娘文代が明智に事態を知らせ、その後警察により救い出されます。
地下室から姿を消した妙子は、隠し戸から侵入した賊に連れ去られていました。
文代の案内で賊の船内に乗り込んだ明智が源造を追い込むと、源造は舌を噛み切って自殺します。これで事件は落着したかと思われましたが、善太郎氏が何者かによって殺され、玉村家は再び恐怖に包まれます。
しかしこの後、明智が全ての謎を解き、源造の実の娘だった妙子を捕らえて物語は大団円を迎えます。
善太郎氏の娘文代と源造の娘妙子は生まれたばかりの赤ん坊の時に、源造に買収された看護婦によって取りかえられていました。妙子は玉村家の人間として育ちながら、源造の回し者として復讐の手助けをしていたのです。
さらに妙子は玉村家がもらい受けた孤児の進一少年に異様な教育を施し、人殺しを快楽とする異常児に育て上げました。福田得二郎殺害時には進一少年をドアの上部にある換気用の回転窓から出入りさせ、度々目撃された「大男」は妙子が進一少年を肩に乗せ、その上からマントを羽織っていました。大きな手型は「大男」の存在を本当らしく見せかけるためにこしらえたものでした。

今作のキーパーソンは2人の女性、妙子と文代です。
スパイ的な役割を担い、最後まで源造の復讐を果たそうとした妙子とは反対に、文代は源造の娘として育てられながら正常な倫理観を失わず、度々明智らを助けました。仲間を裏切った文代は源造の後を追って死ぬ覚悟をしていましたが、文代が源造の実の娘ではないことが分かり、晴れて自由の身となります。その後、文代は明智の探偵助手となり、さらには明智夫人となります。

今作の評価を星3つにとどめた理由は
・福田得二郎の部屋に換気用の回転窓があったことが最後の謎解きまで明かされなかった
・老人力車夫が走り去る大男を見たという証言があったが、妙子が進一少年を肩に乗せたまま外を走って逃げていくのは不自然
・地下室に横たわっていた奥村源次郎のがいこつが動いたのが謎のまま終わった
・文代と妙子が同じ頃に生まれたのが “偶然” で済まされている
など、腑に落ちない点がいくつかあったためです。

<評価>
☆☆☆

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