「陰獣」(中編小説)
<あらすじ>
探偵小説家の寒川は上野の博物館で出会った静子と手紙のやり取りをする間柄となる。
ある時、静子は寒川への手紙で「この頃大変心配なことが起こった。探偵小説家大江春泥(おおえしゅんでい)の住所を知っていたら教えて欲しい」と伝える。
寒川は「春泥は非常な人嫌いで住所さえ分からない」と答えると、静子は寒川を訪れ、異様な事実を告げる。
静子が女学生だった時、平田一郎という青年と恋仲になったが、静子は真から平田青年を好いていなかったため、うるさくつきまとう平田を避けるようになる。
すると、深夜黒い人影が静子の家の塀外をさまよったり、気味の悪い脅迫状が届くようになり、静子は恐怖に震え上がっていた。
そんな時、静子の父が事業に失敗し、夜逃げ同然に身を隠さなければいけなくなった。
静子は女学校を中途退学しなければならなかったが、平田から逃れることができたのでホッと胸をなでおろす気持ちだった。
その後、静子は平田との関係を隠したまま実業家小山田(おやまだ)六郎氏と結婚し、幸せな月日が続いていた。
しかし突然、静子の元に平田からの手紙が届く。そこには、自分が探偵小説家の大江春泥であることや、遂に静子を見つけ出し、これから復讐を実行するといったことが書かれていた。
静子から相談を受けた寒川は春泥の所在をつきとめようとするが、脅迫状の予告通り小山田六郎が殺されてしまう。
小山田氏変死事件後、警察も全力をあげて春泥を捜索するが、ようとしてその行方が分からない。
独自に調査を続けていた寒川は、様々な手掛かりから脅迫状の送り主は春泥ではなく小山田六郎であり、小山田六郎は他殺ではなく事故死だったと推理する。
これにて一件落着かと思われたが、小山田家お出入りの運転手青木民蔵との会話がきっかけで、寒川の心にまたしても陰獣大江春泥の影がさす。
自らの推理が間違っていたことに気付いた寒川は新たな推理を静子に聞かせる。果たして真相は…。
<レビュー>※ネタバレあり
横溝正史が絶賛した乱歩の代表作の1つ。
「陰獣」というタイトルからエログロを想像しましたが、ストーカー的恐怖やSM要素のあるがっつり推理モノです。なかなか姿を現さない犯人の不気味さ、恐ろしさを上手く表現したタイトルだと思います。
どんでん返しは乱歩の得意技とも言えますが、徐々に真相へと近づいていくスリル、予想していなかった結末など、最後まで楽しめる作品でした。
ただ、「小山田静子=大江春泥=平田夫人の一人三役」という推理が正しかったのか(浮浪人を雇って春泥に見せかけたので、春泥役は静子と浮浪人の2人で演じたことになりますが)、静子の死が本当に自殺であったのか、春泥は実在するのかしないのかといった曖昧な点には賛否両論あるかもしれません。
ちなみに大江春泥のモデルは乱歩自身です(乱歩の本名は平井太郎。平田一郎と似ていますね)
作中には「屋根裏の遊戯」「一枚の切手」「B坂の殺人」「パノラマ国」「一人二役」「一銭銅貨」といったタイトルが登場し、乱歩ファンをニヤリとさせます。
<評価>
☆☆☆☆☆
「盗難」(短編小説)
<あらすじ>
とある宗教の教会で、やり手の主任が信者から多額の寄付金を集めると、主任宛に妙な手紙が送られてくる。
その内容は「今夜十二時に寄付金を頂戴に推参する」というどろぼうの予告であった。
主任はいたずらと決めつけたが、心配だったわたしは顔を見覚えている巡査に一部始終を話すと、巡査は笑いながらも今夜様子を見に行くと約束する。
巡査は約束通り十二時近くにやってきたが、何事もなく十二時半になった時、念のため金庫の中に金が入っているか確認した方がいいと言う。
わたしが金庫を開き札束を取り出して見せると、巡査はその札束を手にして「失敬するよ」と言って立ち上がる。
巡査のもう一方の手にはピストルが握られ、主任もわたしも声を立てることもできず、巡査に化けたどろぼうはその場を去って行った。
大騒ぎとなっているわたしたちのところに本物の巡査がやってきたので状況を伝えると、さっそく非常線を張るように手配をすると言って引き返していった。
しかしどろぼうは捕まらないまま二カ月ほど経ったある日、わたしはいつかのどろぼうにそっくりの男を見つけ尾行する。
その男はふたり連れであったが、どろぼうでない方の男の顔が、例の事件で大騒ぎになっていたところに現れた巡査にそっくりなことに気付く。
わたしは金を持っていった男の尾行を続けると、町はずれの森で男と対面する。
男は「あの時盗んだ金は全て偽札だった」と言い、さらに証拠だと言って三枚の百円札を渡して去っていった。
主任が寄付金を偽札にすり替えていたことを知ったわたしは自分の愚かさに腹が立ち、その後まもなくして他に仕事が見つかったため教会を離れる。
しかしある時、偽札といって渡された百円札をわたしの女房が知らずに使うと、それが無事に通用してしまう。
果たして盗まれた金は本物だったのか、偽物だったのか…。
<レビュー>※ネタバレあり
読者を煙に巻くようなどんでん返しが魅力的な作品ですが、二人目の巡査はどろぼうの共謀者だったのか、主任は寄付金を偽札にすり替えていたのか、どろぼうが本物の百円札を渡したのはわたしの尾行を逃れるためだったのかなど、「陰獣」と同様に曖昧さを残して終わっています。
何が真実であったら面白いかを読者に委ねているようなオチです。
こうした点にモヤってしまう方もいるかもしれませんが、胡散臭さと滑稽さが絶妙で、私にとってはこれまた最後まで楽しめる作品でした。
<評価>
☆☆☆☆☆
「踊る一寸法師」(短編小説)
<あらすじ>
サーカス団の一員である一寸法師の緑(ろく)さんは十一、二歳の子どもの胴体に三十男の顔をくっつけたようなかたわ者である。
緑さんは団員たちにいじめられていたがいつも笑っていた。
ある日の公演後、いつものように団員たちにいじめられていた緑さんが、みんなの前で奇術を見せることに。
美人玉乗りのお花が箱に入り、緑さんが外から日本刀を刺していく。最後に箱のふたを開け青竜刀でお花の首を切断する。
首だけになったお花が言葉を発し、笑う。あまりに見事な演技にわたしは言い難い恐怖に慄いた。
ふと気づくとテントには火が放たれ、近くの丘の上には子どものような人影が踊り狂い、スイカのような丸いものに食いついている。
男の手にある丸い物から、そして彼自身のくちびるから、濃厚な黒い液体がポトリポトリとたれている。
<レビュー>※ネタバレあり
言うまでもなく「スイカのような丸いもの」はお花の頭部であることが想像できます。
首だけになったお花が発した声についてですが、作中で「わたし」は、緑さんが腹話術の起源とも言われる八人芸を習得していたのではないかと疑っています。
異形の者による狂気の復讐劇。インパクト抜群でした。おとなしいからといって人をからかうのはやめましょう。緑さんのように怒りを溜め込んでいるかもしれませんよ。
<評価>
☆☆☆☆
「覆面の舞踏者」(短編小説)
<あらすじ>
わたしは友人の井上次郎に誘われ、二十日会という秘密のクラブに入会する。
入会してから五回目となる集まりで、会員十七名の男性と、会長格の井関が用意した十七名の女性が組になって踊る仮面舞踏会が開かれた。
わたしは相手の女の体つきに見覚えのあるような気がしたが、どうしても思い出せない。
用意された酒に酔って正気を失ったわたしは、相手の女性が友人井上の妻春子であったことを翌朝知り、悔恨の情に責められる。
しかし、ふとわたしの頭に一つの疑念が浮かぶ。
井関が本当にこのような不倫な計画を立てるだろうか。本当に相手の女性は井上の妻春子だったのか。
その後、わたしは井関を訪ね、相手の女性が男性陣それぞれの妻であったことを知る。
それではなぜわたしの相手が自分の妻ではなく井上の妻だったのか。
そして、わたしの相手が井上の妻であったなら、井上の相手は…。
<レビュー>※ネタバレあり
1と7を見間違えるという凡ミスにより、一生涯消えないであろう心の傷を負うというやるせない話。
<評価>
☆☆
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