江戸川乱歩②「パノラマ島奇談」

乱歩とハヤブサ 江戸川乱歩

収録作品
「パノラマ島奇談」
「白昼夢」
「鬼」
「火縄銃」

「接吻」

「パノラマ島奇談」(中編小説)

<あらすじ>
東京の下宿屋に住む人見広介(ひとみひろすけ)は、彼自身の理想郷を作り出すことを空想していた。
ある日広介は大学時代の同級生だった新聞記者の男から、広介と双子のようにそっくりだった富豪の菰田源三郎(こもだげんざぶろう)が死亡したことを聞く。
そこで広介は死んだ源三郎に成り代わり、理想郷の資金を手に入れることを思い付く。
まず広介は自殺をしたように見せかけ人見広介という存在を抹殺し、続けて源三郎の墓を掘って源三郎とすり替わった。
その後、あたかも死人が蘇生したかのようなお芝居をして、まんまと源三郎に成り代わることに成功した広介は、予定通り自らの理想郷「パノラマ島」の建設に着手する。
しかし源三郎の妻千代子が、目の前の夫が源三郎とは別の人間ではないかと疑っていることに気付き、広介は千代子殺害の決心をする。
パノラマ島で全てを打ち明けた広介は千代子を殺害し、その日から菰田邸には帰らずパノラマ国の住人として島に永住する。
これにより広介は生涯歓楽にふけることができると思われたが、文学者だという北見小五郎の出現により事態は一変する。
果たしてこの男は何者なのか。目的は一体…。

<レビュー>※ネタバレあり
パノラマ島の描写を素晴らしいと感じるか冗長と感じるかでこの作品の評価は変わると思います。
残念ながら私は後者だったので☆4つとしましたが、それでも広介が源三郎に成り代わる序盤、広介の正体が暴かれる終盤、そして広介自ら花火となり壮絶な死を迎える結末には十分面白さを感じました。
ちなみに、北見小五郎は源三郎の妹である東小路(ひがしこうじ)伯爵夫人の手先の者で、遠くから広介の行動を監視していた東小路夫人が放った刺客ともいうべき人物です。
本来なら菰田家の財力でもって買収でもすれば良いのですが、東小路伯爵は源三郎の親族のうち唯一金銭の力で自由にできない例外でした。

<評価>
☆☆☆☆

「白昼夢」(掌編小説)

<あらすじ>
道ばたで群衆を相手に演説する薬屋の主人真柄(まがら)太郎は、浮気者の女房を殺して屍蝋(しろう)にしたと言う。
人々はその演説を作り話と決めつけ笑っているが、わたしはなんとも知れぬ恐怖を感じた。
主人は「死骸は店先に飾ってある」と言ってわたしを見た。
わたしがその薬屋に入ると、確かに屍蝋となった女の顔があった。
振り返ってみると、一人の警官が他の人たちと同じように笑いながら演説を聞いている。
人間の死骸がさらしものになっていることを警官に告げてやろうかと思ったが、わたしにはそれを実行するだけの気力がなかった。

<レビュー>※ネタバレあり
「冗談だと思ったら本当だった」という話ですが、人を殺したことを自ら大勢の前で話すはずがないと考える人間の心理と、女房を屍蝋にするという信憑性のなさを上手く利用しています。
「あれは、白昼の悪夢であったか、それとも現実のできごとであったか」という冒頭の一文が「わたし」の心情を見事に表現しています。

<評価>
☆☆☆☆

「鬼」(短編小説)

<あらすじ>
郷里に帰省していた探偵小説家の殿村昌一(とのむらしょういち)と村長の息子大宅(おおや)幸吉は、散歩の途中で人間の生腕をくわえた山犬と遭遇する。
二人は辺りを調べると、数匹の犬に食い荒らされた女の惨殺死体を見つける。
どうやら犬どもは生きている女を食い殺したのではなく、殺されている死骸を餌食にしたようだ。
顔面は跡形もなかったが、番小屋の仁兵衛(にへえ)じいさんの娘のお花は、死骸が身につけていたものからそれが山北鶴子(つるこ)だと断言する。
鶴子は幸吉が嫌っていたいいなずけの娘であり、幸吉には別に秘密の恋人がいた。
その後、関係者の取り調べが行われた際、被害者鶴子の母親から差出人のKという人物が鶴子を呼び出す内容の封書が提出された。
国枝検事はKというのが幸吉の頭文字に一致することとアリバイがないことから幸吉を疑う。
取り調べが終わると殿村は国枝氏を連れて番小屋へ行き、鶴子の死骸が倒れていた近くに、胸に短刀が突き刺さったわら人形が転がっていたという話を仁兵衛じいさんから聞く。
その後、幸吉の部屋の縁の下から血痕が付着したゆかたが見つかり、秘密の恋人の存在も知られた幸吉は窮地に陥る。
見るに見かねた殿村は、秘密の恋人絹川雪子に幸吉のアリバイを証言してもらえばいいと提案。
警察は雪子を取り調べるが、なぜか雪子は幸吉にとって不利な証言をする。
動機あり、証拠品あり、アリバイなしとなった幸吉は容疑者として拘引されたが、幸吉の有罪を信じない殿村はこの事件について探偵することを決心する。
手始めに殿村は雪子に会いに行くが、話を終えて家を出るとまるで蒸発したかのように雪子は部屋から姿を消す。
警官とともに雪子を捜していると突然殿村の頭の中で謎が解け、犯人は高原療養所にいると叫ぶ。
鶴子を殺したのは誰なのか。雪子はどんな方法で姿を消し、どこへ行ったのか。そして現場近くに転がっていたわら人形は何を意味し、高原療養所の入院患者北川鳥子とは何者なのか。

<レビュー>※ネタバレあり
嫉妬に燃える復讐の「鬼」と化した鶴子が恋敵である雪子を殺し、自分から背き去った幸吉に殺人犯としての刑罰を与えることを目論んだというお話。
急に全ての謎が解けてしまう辺りに少々強引さを感じますし、「顔が分からない死体は大抵別人」というお約束通りでもありますが、死んだはずの者が生きており、生きているはずの者が死んでいたという倒錯が本作の面白いところ。
北川鳥子と偽って高原療養所に入院していたのは「殿村が会った絹川雪子」ですが、その雪子は実は山北鶴子でした。
鶴子は雪子を殺して顔面を潰し、雪子に成りすましていたので、死んだはずの鶴子が生きていて、生きているはずの雪子が死んでいたという状況が作り出されました。
殿村は本物の雪子の顔を知らない上、鶴子は変装をしていたのですぐに気付くことはできませんでしたが、鶴子とは以前一度会っていました。殿村が「雪子=変装した鶴子」だと気付いたことが真相解明の手掛かりとなります。
読者をミスリードしたのは仁兵衛じいさんの娘のお花が死骸を見て山北鶴子だと断言したことでしょう。
ちなみに、列車を使ったトリックはコナン・ドイルの短編小説「ブルースパーティントン設計書」から拝借したものだそうです。わら人形や雪子の死骸、あるいは部屋から消えた鶴子の移動においてこのトリックが使われています。

<評価>
☆☆☆☆

「火縄銃」(短編小説)

<あらすじ>
ある年の冬休み、高等学校の学生であるわたしと同級生の橘梧郎(たちばなごろう)は、友人の林一郎の招待で山麓Sホテルを訪れる。
橘は探偵小説や犯罪学の心酔者で、シャーロック・ホームズというあだ名をつけられていたような変わり者である。
昼寝をしているという一郎の部屋を二人で訪ねるが、ドアを強く叩いて大声で呼んでも目を覚ます気配がない。
不安になった二人がホテルのボーイに持ってきてもらった合いカギで部屋に入ると、一郎は寝台の上で左胸に貫通銃創を受けて横たわっており、机の上には一郎と仲の悪い義弟二郎の猟銃(火縄銃)が。
駆けつけた警察によってその場から拘引される二郎。
しかし橘は犯罪でも自殺でも過失死でもないと言う。果たしてその真意は…。

<レビュー>※ネタバレあり
本作は乱歩が学生時代に試作した処女作だそうです。
トリックにはあまり面白みを感じませんでしたが、デビュー前の作品と考えると貴重です。
ちなみに、水をたたえた玻璃瓶(ガラス瓶)がレンズの役割を果たし、太陽光が火縄銃の点火孔に集中、その熱により暴発するというトリックでした。
橘は「犯人のない他殺」と表現していますが、かなり偶然性の高い事故と言えます。

<評価>
☆☆

「接吻」(短編小説)

<あらすじ>
役所に勤める山名宗三(やまなそうぞう)は、ひと月ばかり前に新妻を迎え有頂天だった。
ある日、宗三が家に帰り障子の破れから茶の間を覗いてみると、妻のお花が一枚の写真を持って、接吻したり抱きしめたりしている。
お花がその写真を隠して青くなった様子から、それは自分の写真ではなく、お花の遠縁の者である役所の課長村山の写真ではないかと疑う。
宗三はお花がその写真をどのタンスのどの引き出しにしまうのかを盗み見て、真夜中にその写真を確認すると、やはりそれは村山のものであった。
翌日、悔しさに身を震わせる宗三は村山に辞表を投げつけ役所を辞め、お花の目の前で村山の写真をズタズタに引き裂く。
宗三がお花の行動の一部始終をすき見していたことを白状すると、お花は突然笑い出す。
お花はあの写真は宗三のもので、お花が写真をしまったタンスと宗三が調べたタンスは別のものだと言う。
その後、お花があることに気付いて説明すると、宗三は自らのしくじりにがっかりする。

<レビュー>※ネタバレあり
お花が気付いたのは、宗三が障子の穴から見たのは洋服ダンスのとびらについている鏡で、それに映った別のタンスと勘違いしたということです。
それを知った宗三は取り返しのつかない辞表まで書いてしまった自らの失敗にがっかりしますが、本作は鏡のトリックがお花の創作であり、あの写真はやっぱり村山のものであった可能性を示唆して終わります。
いずれにしても宗三が気の毒でなりません。

<評価>
☆☆

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