収録作品
「鏡地獄」
「押絵と旅する男」
「火星の運河」
「目羅博士の不思議な犯罪」
「虫」
「屋根裏の散歩者」
「疑惑」
「鏡地獄」(短編小説)
<あらすじ>
わたしは友だちのKから、ガラス、レンズ、鏡といったものに不思議な嗜好を持っていた男(彼)の話を聞く。
彼は中学を卒業すると、庭の空き地に建てた実験室に閉じこもるようになり、望遠鏡で人家の室内を盗み見たり、全面鏡張りの部屋で恋人と遊んだりと、異常な嗜好は高じていくばかりであった。
彼の健康は日一日と損なわれていき、両親から受け継いだ財産も日々消えていったが、彼の暴挙を止められる者はいない。
そんなある日、遂に悲しむべき破滅がやってくる。
<レビュー>※ネタバレあり
好奇心が徐々に病的になっていき、やがて狂気に変わる様を描いた作品です。
ある日Kが彼を訪れると、実験室の中で球体の物がころがり回り、中から笑い声のようなうなりが響いていました。
Kがその球体をハンマーで壊すと、中から死人のような相好の彼が這い出してきます。
内部が一面鏡張りのガラス玉に入って出られなくなり、発狂してしまったのです。
そして彼は狂ったままこの世を去ります。
球体の鏡の中心からは一体どのような影像が見えるのでしょうか。
実物があったら怖いもの見たさで中に入ってしまうかもしれないけど、数時間閉じ込められて転がり続けたら正気でいられる自信はありません。
<評価>
☆☆☆
「押絵と旅する男」(短編小説)
<あらすじ>
わたしの乗った上野への汽車に一人の先客があった。わたしはその男が持っていた押し絵について不思議な話を聞かされる。
その男の兄がとある娘に恋をしたが、その娘はのぞきからくり屋にあった押し絵のお七であったことを知る。
娘がこしらえものの押し絵だと分かっても諦められないと言う兄の頼みで、男は遠メガネ(双眼鏡)をさかさにして見ると、兄の姿はみるみる小さくなり、アッと思う間に闇の中に溶け込んでしまった。
姿が見えなくなった兄を捜していた男は、のぞきからくり屋の前に戻ってきた時にハタとあることに気が付いた。
案の定、兄は押し絵になってお七を抱きしめていた。
男がその押し絵を手に入れてから三十年余りが経ち、久々に兄にも東京を見せてやりたいと思い、兄(押し絵)と一緒に旅をしていると言う。
さらに男は、元々作り物である娘の方は若いままであるが、根が寿命のある兄は老いていっていることが気の毒だと言う。
その後、どことも知れぬ小駅で汽車を降りていったその男を見ていると、その後ろ姿は押し絵の老人(男の兄)そのままの姿であった。
<レビュー>※ネタバレあり
終始不思議な雰囲気に包まれたような幻想的な作品です。
男の兄が押し絵になったという話でしたが、最後の「男の後ろ姿が押し絵の老人そのままの姿だった」という一文で、押し絵の老人は兄ではなく本人である可能性が出てきます。
そもそも人間が押し絵になることはあり得ないので、男が自らをモデルとした押し絵を作り、話を創作したという方が現実的です。
最後に謎を残して読者の想像力を掻き立てる点はいかにも乱歩らしい。
<評価>
☆☆☆
「火星の運河」(掌編小説)
<あらすじ>
暗い森の中を歩き続けると沼に辿り着いたわたし。
自身の裸の体を見ると、男のではなく恋人のそれとそっくりな豊満なるおとめの肉体であった。
沼に入り踊り狂うわたしは視界に紅の色が欠けていることに気付き、自らの体を傷つける。
傷口からしたたる血のりが川をなす。沼の水面に映っているのは火星の運河だ。
遠くの方で誰かが呼んでいる。その声が一言ごとに近くなる。地震のように体が揺れる。
<レビュー>※ネタバレあり
夢オチです。
夢にありがちな得体の知れない恐怖感や非現実的な光景を描いていますが、アブノーマルな性的嗜好も想像させます。
ちなみに最後の段落は意味が分かりません。相手の頬が眼界を覆い尽くすとはどういうシチュエーションなのだろうか。
<評価>
☆
「目羅博士の不思議な犯罪」(短編小説)
<あらすじ>
探偵小説家の江戸川は動物園で出会った青年から異様な体験談を聞く。
青年はある五階建てのビルで玄関番を勤め、夜はそのビルの地下室に寝泊まりしていたが、五階の一室で首吊り自殺が三度繰り返される。
二間幅ほどの通路をはさんで向き合うビルの一室に人間の顔が覗いていたのを見た青年は、その人物が目羅眼科の医学博士、目羅聊斎(めらりょうさい)であることを突き止める。
最後の首吊りがあってから半年ほど経ち、例の部屋に借り手がつくと、青年は自殺の真相を確かめるべく新来の借り手になりすます。
そして、離れた部屋の人間に首を吊らせるトリックに気付いた青年は、同じトリックを目羅博士に仕掛ける。
<レビュー>※ネタバレあり
本作のキーワードは「まね」「模倣」。
目羅博士のトリックは、ろう人形に部屋の住人と同じ洋服を着せて首を吊っているように見せ、住人にも首を吊らせるというものです。
「まねは本能」という前提が説得力に欠けるため、首を吊らせるトリックに現実味はありませんが、完全犯罪の面白さはあります。
最後は青年が仕掛け返したトリックにより、目羅博士はビルから落ちて死にます。
<評価>
☆☆☆
「虫」(中編小説)
<あらすじ>
郊外の屋敷に住む人嫌いの柾木愛造(まさきあいぞう)は、ほとんど日の光すら入らない土蔵の中で暮らしていた。
ある時、柾木は少年時代の初恋の相手である女優の木下芙蓉(きのしたふよう)と再会する。
芙蓉は柾木の唯一の友人である池内光太郎と付き合っていたが、柾木は芙蓉に対する恋心が再燃していた。
柾木は二人を尾行し、会話を立ち聞きし、情交をすき見していたが、やがて彼女を自分のものにしたいという気持ちが抑えられなくなり、芙蓉を殺害することを決心する。
計画通り芙蓉を殺害した柾木は死体を自らの土蔵に運び入れる。
当初は屋敷の庭にある古井戸に死骸を隠してしまうつもりだったが、芙蓉の死体に一種異様の魅力を覚えた柾木は本で読んだ防腐法を試みる。
しかし作業は柾木のような素人に出来るものではなく、死体は極微有機物(虫)に蝕まれ腐敗していく。
死体に化粧をすることで腐敗を隠したが、やがて死体は膨張し、混乱した柾木は正気を失う。
<レビュー>※ネタバレあり
数日後、警官たちが土蔵に入ると、むせ返る死臭と夥しい蛆虫の中に二つの死骸が転がっているのが発見されます。芙蓉の死毒によって命を奪われた柾木は、芙蓉のはらわたの中に顔を突っ込んで死んでいました。
グロテスクかつ凄惨なラストは強烈です。単なるストーカーの話がこのような結末になるとは。
常軌を逸した人間が狼狽する姿にはリアリティを感じました。
<評価>
☆☆☆☆
「屋根裏の散歩者」(短編小説)
<あらすじ>
どんな遊びにも興味を感じなかった郷田三郎だったが、しろうと探偵の明智小五郎と知り合い犯罪に興味を覚える。
三郎は東栄館という新築の下宿屋に移り住むと、ある時押し入れの天井板が外れることに気付き、その日から「屋根裏の散歩」が始まる。
ある夜ふけのこと、発見した節穴から下を覗くと、そこには東栄館の止宿人の中で一番虫が好かない遠藤という男の部屋があった。
遠藤が節穴の真下で大きな口を開けて寝ているのを見て、節穴から毒薬をたらして遠藤を殺害することを思い付く。
医学校に通っていた遠藤が部屋にモルヒネを隠し持っていることを聞いていた三郎は、遠藤の部屋からモルヒネの入ったびんを盗み出し、計画通り遠藤を殺害することに成功する。
三郎の狙い通り誰ひとり遠藤の自殺を疑うものはなかったが、話を聞きつけた明智が久しぶりに三郎を訪ねてくる。
<レビュー>※ネタバレあり
明智はふとした会話から「目覚まし時計」と「タバコ」に不審を抱き、変態的な犯罪嗜好癖のある三郎への疑いを強めます。
その後、明智も「屋根裏の散歩」をして三郎の部屋をすき見し、三郎が犯人であることを確信するものの証拠がありませんでした。
そこで明智は、三郎のシャツのボタンを遠藤の部屋の天井裏で見つけたとカマをかけて自白させることに成功します。
真相に辿り着く終盤のスピード感は爽快で、完璧と思われた手口がバレてしまうのか?というわくわく、どきどき感も楽しめます。
<評価>
☆☆☆☆
「疑惑」(短編小説)
<あらすじ>
男の家では父親が酒に酔って母親に暴力を振るい、それを見た母親思いの兄が父親と取っ組み合いの喧嘩をし、妹が泣きわめいてそれを止めるといった日々が続いていた。
ある日の早朝、庭で父親が頭を割られて死んでいるのが発見される。
縁側のくつ脱ぎ石の上に落ちていた母親の櫛(くし)は兄が拾って隠し、死骸のそばに落ちていた兄のものと思われるハンカチは男が便所へ放り込み、妹は凶器の斧を土に埋めて隠していた。
父親を殺したのは母親か、兄か、妹か。
家族全員がお互いを探り合う地獄のような日々を過ごすうちに、男は自分自身を疑うようになる。
男は父親を殺した犯人なのか。男が忘れていたこととは…
<レビュー>※ネタバレあり
庭の石に腰をかけて休む父親の癖を知っていた男が、「石の上の枝から斧が落ちれば父親を殺すかもしれない」と無意識に考えて枝に斧を置いたことを忘れ、ネコが木に飛びついた拍子に父親の頭の上に斧が落ちたというオチです。
「忘却の心理」と「偶然」により起きた殺人というアイディアはなかなか面白いですが、だいぶ強引な印象を受けました。
ちなみに櫛は母親が父親の死体を見つけた時にたまたま落としたもので、兄は母親が疑われることを避けるために櫛を隠しました。兄のものと思っていたハンカチは、枝に置き忘れていた斧の柄に巻きつけてあった男自身のもので、自分で自分のハンカチを隠滅したことになります。妹が斧を隠したのは、家族の誰かが父親を殺したと思い込み、家族が警察に疑われないようにするためでした。
<評価>
☆☆☆
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